「ポスターは貼ったけれど、これで対策になっているのだろうか」
「義務化されたと聞いたが、何をどこまでやればよいのか分からない」
2026年10月1日、改正労働施策総合推進法が施行され、カスタマーハラスメント(カスハラ)への対応が、すべての事業主の法的義務となりました。すでに施行されているため、未対応の状態は「これから準備する段階」ではなく、義務を果たしていない状態にあたります。
この記事では、カスタマーハラスメント対策とは何か、法律上どこまでが求められるのか、そして今から着手する場合の手順を、社会保険労務士の視点で整理します。
▶ カスハラ対策のご相談はこちら

カスタマーハラスメント対策とは?まず「定義」を押さえる
法律上のカスハラの定義と3つの要件
改正労働施策総合推進法では、カスタマーハラスメントを次のように定めています。
職場において行われる顧客、取引の相手方、施設の利用者その他の当該事業主の行う事業に関係を有する者の言動であって、その雇用する労働者が従事する業務の性質その他の事情に照らして社会通念上許容される範囲を超えたものにより、当該労働者の就業環境が害されること
なお、要件をまとめると以下の3つになります。
- 行為者が顧客等であること(取引先や施設利用者も含まれます)
- 社会通念上許容される範囲を超えた言動であること
- それにより労働者の就業環境が害されること
村山花純つまり対策とは、クレーム対応のテクニックを磨くことではありません。この3要件に当てはまる言動から従業員を守る体制を、会社として整えることを指します。
正当なクレームとカスハラの違い
実務で最も判断に迷うのがこの線引きではないでしょうか。
なお、商品やサービスに本当に問題があり、改善や返金を求める行為は正当な申し出であり、カスハラではありません。
一方で、次のような言動は許容範囲を超えると考えられます。
- 人格を否定する暴言、侮辱、脅迫(「馬鹿野郎」「クビにしろ」など)
- 土下座など、謝罪方法の強要
- 必要以上に長時間にわたる叱責や拘束
- 欠陥のない商品の交換要求など、著しく不当な要求
- 従業員個人へのつきまとい、SNSでの氏名や画像の公開



難しいのは、同じ言葉でも、継続性や頻度、従業員が受けた影響によって評価が変わる点です。だからこそ、判断をその場の従業員に委ねず、会社としての基準をあらかじめ示しておく必要があります。
2026年10月1日に義務化|何が変わったのか
根拠法と施行日
2025年6月11日に公布された改正労働施策総合推進法により、カスタマーハラスメント防止のための雇用管理上の措置が事業主の義務となりました。施行日は2026年10月1日です。あわせて、厚生労働省は2026年2月26日に、事業主が講ずべき措置の内容を具体化した指針を策定しています。
つまり、自治体の条例による努力義務にとどまっていた対応が、法律上の措置義務へと位置づけられたことになります。
対象は「労働者を1人でも雇用するすべての事業主」
ここは誤解の多い点です。対象は労働者を1人でも雇用しているすべての事業主であり、中小企業や個人事業主も含まれます。パワーハラスメント防止措置が中小企業に猶予期間を経て適用された経緯から「今回も後からだろう」と考えてしまうケースがありますが、カスハラ対策に経過措置は設けられていません。



パワハラには中小企業に猶予措置が設けられていましたが、カスハラにはそれがありません。
企業が講ずべき措置とは?5つの柱
指針が求める措置は、おおむね次の内容に整理できます。
- 方針の明確化と周知・啓発:カスハラを許さないという方針を定め、従業員と顧客等の双方に示す
- 相談体制の整備:相談窓口を定めて周知し、適切に対応できる体制を整える
- 事後の迅速かつ適切な対応:事実確認、行為者への対応、被害を受けた従業員への配慮(メンタルヘルス面の支援を含む)
- プライバシーの保護:相談者の情報を適切に扱う
- 不利益取扱いの禁止:相談したことを理由に、解雇その他の不利益な取扱いをしない
上記は1つでも欠けると失敗に終わる可能性があります。
しっかり対策したい場合は中身から整備する必要があるため、専門家である社労士などに相談しましょう。
罰則はある?行政指導・勧告のリスク
カスハラ対策に違反したこと自体への直接の罰金規定はありません。
しかし、パワーハラスメント防止措置と同じ枠組みのもと、助言・指導・勧告の対象となり、勧告に従わない場合には企業名が公表される可能性があります。労働局からの指摘、従業員からの申告、公表による評判への影響を考えれば、「罰則がないなら後回し」とは言えません。



その他、退職や採用難になるリスクも潜んでいます。今だけの措置ではなく、長い目でしっかり取り組むことが求められます。
カスハラ対策が必要な3つの理由
企業がカスハラ対策をしなければならない理由について、特に重要なものを3つご紹介します。
1法的義務だから
第一の理由は、前述のとおり法律上の措置義務であることです。「対応している」と言えるためには、方針・体制・教育・記録が揃っている必要があります。
2安全配慮義務があるから(労働契約法第5条)
労働契約法第5条は、使用者は労働者がその生命・身体等の安全を確保しつつ労働できるよう必要な配慮をしなければならない、と定めています。
この安全配慮義務は、カスハラ対策が義務化される前から存在していました。
つまり、顧客からの暴言や長時間の拘束によって従業員が精神的に追い詰められ、休職や退職に至った場合、会社が何の措置も講じていなかったという事実は、義務化とは別に、安全配慮義務違反として責任を問われうるということです。
こうした事案では「会社は把握していたか」「把握した後に何をしたか」「記録は残っているか」が正面から問われます。
カスハラ対策は、法改正への対応であると同時に、会社を守る防御策でもあるのです。
3人材の定着と採用に直結するから
顧客から理不尽な扱いを受けたとき、会社が間に入ってくれるかどうかは、従業員の定着を大きく左右します。
「自分は守ってもらえない」という経験は、しばしば退職の引き金になります。人手不足が続くなか、カスハラ対策を明示していることは、求職者に対する前向きなメッセージにもなります。
「対策しているつもり」になっていないか確認しましょう
「カスハラ対策をしているつもり」と思っていても、案外未完成な状態であることは往々にしてあります。
以下のチェック項目を確認してみましょう。
☐ カスハラを許さないという方針を文書にし、従業員と顧客の双方に周知している
☐ 就業規則や服務規律にカスハラに関する条項を入れている
☐ 現場がその場で見られる対応フローがある(どの時点で打ち切るか、誰を呼ぶか)
☐ 相談窓口と担当者が決まっており、従業員に知られている
☐ 発生時の記録様式があり、実際に記録が残っている
☐ 従業員向け・管理職向けそれぞれに教育を実施している
☐ 店頭やWebサイトで、毅然と対応する旨を表示している



3つ以上空欄がある場合は、措置を講じたとは言いにくい状態です。とくに「方針はあるが現場に伝わっていない」「規程に入れたが教育はしていない」というケースが多く見られます。
未対応の企業が、今から始める3ステップ
現時点においてカスハラ対策をまだしていない、これからするつもりだが何から手をつけたらいいのかわからないという企業に向けて、3つのステップをご紹介します。
STEP1 方針を決める(経営の意思表示)
最初に行うのは、会社としての姿勢を決めることです。どこまでが正当な要求で、どこからは応じないのか、その線引きを経営者が決め、文書にします。これがなければ、現場は判断できません。あわせて就業規則や服務規律に条項を設け、社内ルールとして位置づけます。
STEP2 現場に配る(フロー・NGワード・掲示物)
方針を決めただけでは現場は動きません。「誰を呼ぶか」「どの時点で打ち切るか」「警察に連絡する基準は何か」を1枚のフローにして、従業員がすぐ見られる場所に置きます。顧客向けの掲示も、抑止力として機能します。
STEP3 教育する(従業員向け/管理職・窓口担当者向け)
最後に教育です。従業員向けには「断ってよい」「報告してよい」という安心感を、管理職や相談窓口担当者向けには、相談を受けたときの初期対応と記録の取り方を伝えます。受講記録を残すことも忘れないでください。措置を講じた証拠になります。
最後に、「よくあるつまづき」についても以下ご紹介します。
- ポスターを貼っただけで終わっている
- 就業規則に条項を追加しただけで、従業員が内容を知らない
- 窓口は設けたが、担当者が対応方法を教わっていない



いずれも「形はあるが機能していない」状態です。方針・現場への周知・教育・記録の4つが揃って、はじめて対策といえます。
とわ社会保険労務士事務所のカスハラ対策支援
「何から手をつければよいか分からない」「社内に進める人手がない」という企業さまのために、当事務所ではカスハラ対策 3か月スターターキットプランをご用意しています。
前章のSTEP1〜3を、そのまま3か月のロードマップに落とし込んだ内容です。
■ 弁護士と社会保険労務士が連名で対応
弁護士 伊奈さやか先生(弁護士法人リーガルジャパン東京事務所)と、社会保険労務士 村山花純(とわ社会保険労務士事務所代表)が共同で支援します。法的な裏付けと労務実務の両面から整えられる点が特徴です。
■ 3か月の進め方
- 1か月目:弁護士・社労士の名義入り宣言ポスターとステッカー、現場で使える1枚の対応フローとNGワード集をご提供します
- 2か月目:カスハラの定義や対策に関する資料をご提供し、就業規則にカスハラ対策条項を追加します
- 3か月目:90分のセミナーを1回実施します(従業員向け/管理職・相談窓口担当者向けから選択)
- 期間中随時:経営者・管理職向けのチャットホットラインを、各月3回までご利用いただけます
■ 料金:3か月 150,000円(税別)/分割払いもご相談ください
セミナーのみのご依頼も承っております。すでに規程は整備済みで、教育だけを実施したいという場合もお気軽にご相談ください。
▶ カスハラ対策スターターキットの詳細・お問い合わせはこちら






