2026年(令和8年)は、労働・社会保険関係の改正が「4月」「7月」「10月」の3つの山に分かれて施行される、近年でも特に密度の高い一年です。
子ども・子育て支援金の徴収開始に始まり、女性活躍推進法の情報公表義務の拡大、障害者法定雇用率の引上げ、カスタマーハラスメント対策の義務化、そしていわゆる「106万円の壁」の撤廃まで、いずれも給与計算・雇用管理・就業規則に直結する内容です。
本記事では、改正内容を施行日順に整理し、「いつまでに何をすべきか」について一つひとつわかりやすく解説します。
2026年(令和8年)法改正カレンダー一覧
まずは変更点について、全体像から把握しましょう。
2026年4月からの改正内容は以下のとおりです。
| 施行日 | 改正内容 | 主な対象 |
| 2026年4月1日 | 子ども・子育て支援金の徴収開始(支援金率0.23%・労使折半) | 健康保険の被保険者を雇用する全企業 |
| 2026年4月1日 | 在職老齢年金の支給停止基準額を月51万円→65万円に引上げ | 60歳以上の在職受給者がいる企業 |
| 2026年4月1日 | 健康保険の被扶養者認定を「労働契約ベース」で判定 | パート・アルバイトを雇用する全企業 |
| 2026年4月1日 | 改正労働安全衛生法の一部施行(高年齢労働者対策・混在作業) | 製造・建設・小売など現場を持つ企業 |
| 2026年4月1日 | 改正女性活躍推進法(男女間賃金差異・女性管理職比率の公表義務) | 常時雇用101人以上の企業 |
| 2026年4月1日 | 治療と仕事の両立支援措置が事業主の努力義務に | 全企業 |
| 2026年7月1日 | 障害者法定雇用率が2.5%→2.7%に引上げ | 常時雇用37.5人以上の企業 |
| 2026年10月1日 | カスハラ・求職者等セクハラ防止措置の義務化 | 労働者を1人でも雇用する全事業主 |
| 2026年10月1日 | パート・有期/同一労働同一賃金のルール改正 | パート・有期・派遣を雇用する全企業 |
| 2026年10月1日(予定) | 社会保険の賃金要件(106万円の壁)撤廃 | 特定適用事業所(51人以上) |
| 2026年10月頃 | 令和8年度地域別最低賃金の発効(目安+55円) | 全企業 |
村山花純労働関係法においては毎年多くの改正があり、企業の準備は先手先手が必須といえます。
2026年4月1日施行|給与計算と扶養実務が大きく変わる
本章では、給与計算や賃金などの実務に関わる項目について解説します。
1. 子ども・子育て支援金の徴収がスタート(給与天引きの新項目)
少子化対策の財源として創設された「子ども・子育て支援金」の徴収が、2026年4月分保険料から始まりました。健康保険料に上乗せする形で徴収され、子どもの有無にかかわらず被保険者全員が対象です。
令和8年度の被用者保険の支援金率は、国が示す一律の率として0.23%であり、労使折半で、賞与からも徴収されます。



ただし、産休・育休中の保険料免除者は支援金が免除されます。
なお、翌月控除の会社であれば、2026年5月支給分から天引きが始まっています。
- 実務ポイント①:給与計算システムの料率設定が最新か再確認する(4月分=多くは5月支給分から)
- 実務ポイント②:賞与計算にも0.23%が自動適用される設定になっているか点検する
- 実務ポイント③:「手取りが減った」という問い合わせに備え、給与明細への内訳表示と社内周知を徹底する
【参考】
・こども家庭庁「子ども・子育て支援金制度について」
・全国健康保険協会「協会けんぽの子ども・子育て支援金率」
2. 在職老齢年金の支給停止基準額が月65万円へ大幅引上げ
働きながら老齢厚生年金を受け取る方の年金が減額される基準額(支給停止調整額)が、2026年4月より、月51万円(令和7年度)から月65万円(令和8年度)に引き上げられました。
令和7年年金制度改正法の法定額62万円(令和6年度価格)に、賃金変動に応じた改定が加わった額です。
つまり、賃金(総報酬月額相当額)と老齢厚生年金(受け取る年金額)の基本月額の合計が65万円以下であれば、年金は全額支給されます。
高齢従業員の「働き損」が緩和されるため、定年後再雇用者の労働時間や賃金設計を見直す好機といえるでしょう。



調整される老齢厚生年金は、年金の二階部分になります。
例えば会社員で社会保険に加入し、なおかつ年金を受給している方は、この制度の対象になる可能性があります。
【参考】
・日本年金機構「在職老齢年金制度が改正されました」
・厚生労働省「在職老齢年金制度の見直しについて」
3. 「130万円の壁」の判定が実績ベースから労働契約ベースへ
健康保険の被扶養者認定における年間収入の判定方法が、2026年4月1日より変わりました。
従来の総合判断に代わり、労働条件通知書等に記載された時給・所定労働時間・所定労働日数から算出した年間収入見込額で判定します。



最大のポイントは、契約に明確な規定がなく見込みがたい残業代を、年間収入に含めない点です。
繁忙期の残業で結果的に130万円を超えても、社会通念上妥当な範囲にとどまる限り、扶養認定は取り消されません。
労働条件通知書等に関する留意点等は以下のとおりです。
- 基準額:
原則130万円未満/60歳以上・一定の障害者は180万円未満/19歳以上23歳未満(配偶者を除く)は150万円未満 - 注意点:
契約期間1年未満、「シフト制による」など時間の記載が不明確、「通勤手当有」など手当額が不明確な場合は、この取扱いでは判定できません - リスク:
所定労働時間や時給を不当に低く記載していたことが判明した場合は、認定取消しの対象になります
つまり、労働条件通知書の精度が、そのまま扶養判定の可否に直結するようになったということです。今一度、パート・アルバイトで働く方の契約書式を総点検しましょう。
【参考】
・厚生労働省「労働契約内容による年間収入が基準額未満である場合の被扶養者の認定における年間収入の取扱いについて」(令和7年10月1日 保保発1001第3号・年管管発1001第3号)
・日本年金機構「労働契約内容による年間収入での被扶養者の認定の取り扱いについて」
4. 改正労働安全衛生法の一部施行|高年齢労働者とフリーランス
改正労働安全衛生法において、2026年4月1日から以下の内容が動き出しました。
- ラベル表示・SDS交付等の対象物質が約2,900物質に拡大
- 高年齢労働者の労災防止措置(作業環境の改善、体力の状況把握等)が事業者の努力義務となり、国の指針が適用開始
- 混在作業場所における(特定)元方事業者の指導・連絡調整等の措置義務の対象が、「労働者」から個人事業者等を含む「作業従事者」へ拡大
- 機械等・建築物を貸与する者の災害防止措置も、個人事業者等に貸与する場合に拡大
一人親方やフリーランスが同じ現場で働く業種は、安全衛生管理体制の対象範囲そのものが広がります。なお、個人事業者等自身への義務付けや業務上災害の報告制度は、2027年4月1日施行となります。
さらに50人未満事業場のストレスチェック義務化においても、公布から3年以内に施行されます。
【参考】
・厚生労働省「労働安全衛生法及び作業環境測定法の一部を改正する法律」特設ページ
・厚生労働省「個人事業者等の安全衛生対策について」
5. 改正女性活躍推進法|101人以上の企業に情報公表が義務化
改正女性活躍推進法により、常時雇用する労働者101人以上の事業主は「男女間賃金差異」と「女性管理職比率」の公表が必須項目となりました。
「男女間賃金差異」はこれまで301人以上のみが対象、「女性管理職比率」は今回が初の義務化となります。
- 301人以上:
男女間賃金差異+女性管理職比率+「機会の提供」区分から1項目以上+「両立支援」区分から1項目以上=計4項目以上 - 101〜300人:
男女間賃金差異+女性管理職比率+14項目から1項目以上=計3項目以上 - 100人以下:
努力義務
初回公表は、2026年4月1日以降に最初に終了する事業年度の実績を、次の事業年度の開始後おおむね3か月以内に行います(3月決算なら2027年6月末が目安)。



公表は、自社サイトまたは「女性の活躍推進企業データベース」で行います。
あわせて、法の有効期限が2036年3月31日まで延長され、「えるぼしプラス」認定も創設されました。
集計・検証には想像以上に時間がかかるため、新たに対象となる中小企業ほど早めの着手を心がけましょう。
【参考】
・厚生労働省「女性活躍推進法特集ページ」
・厚生労働省リーフレット「女性活躍推進法が改正されました!」
6. 治療と仕事の両立支援が事業主の努力義務に
改正労働施策総合推進法により、治療と就業の両立を促進するために必要な措置を講じることが、2026年4月1日から事業主の努力義務となりました。
具体的には、がん等の治療を受けながら働く労働者への配慮を、社内ルール化する必要があります。



本措置の実施を検討するためには、就業規則への私傷病休職・短時間勤務・時差出勤の規定整備が第一歩となります。
社労士などを頼りながら、職場環境の整備をしっかり行いましょう。
【参考】
厚生労働省「令和7年の労働施策総合推進法等の一部改正について」(改正概要資料)
2026年7月1日施行|障害者法定雇用率が2.7%へ
民間企業の障害者法定雇用率が、2026年7月1日から2.5%から2.7%に引き上げられました。これに伴い、雇用義務の対象も、常時雇用労働者40.0人以上から37.5人以上へ拡大しています(国・地方公共団体等は3.0%)。
注意したいのは年度途中で率が切り替わる点です。
2026年6月1日時点の「ロクイチ報告」は引上げ前の2.5%で不足の有無を確認する一方、令和8年度分の障害者雇用納付金は6月以前を2.5%、7月以降を2.7%で算定します。
さらに2025年4月には除外率が一律10ポイント引き下げられ、変更が短期間に重なっています。「以前試算したから大丈夫」と考えず、37.5人前後の規模の企業こそ再計算が必要です。
【参考】
厚生労働省「障害者の法定雇用率引上げと支援策の強化について」
2026年10月1日施行|ハラスメント・同一労働同一賃金・社会保険
この章では、今年の秋に施行される内容を一気に解説します(執筆時点:2026年8月21 日)。今から何をすればいいのかわからない、困っている企業様は是非お読みください。
7. カスタマーハラスメント・求職者等セクハラ防止措置が義務化
改正労働施策総合推進法・改正男女雇用機会均等法により、2026年10月1日からカスタマーハラスメント(カスハラ)と求職者等セクハラ(就活セクハラ)の防止措置が事業主の義務となります。



この2つの義務は、労働者を1人でも雇用していれば対象となり、中小企業の猶予期間もありません。
カスハラの定義は以下の通りです。
①職場で行われる顧客等の言動が、②業務の性質等に照らし社会通念上許容される範囲を超え、③労働者の就業環境を害するもの、の3要素です。
電話やSNS等を通じた言動はハラスメント要素に含まれますが、正当な苦情・要望は該当しません。



カスハラと正当なクレームとの線引きができることも重要です。
外部からのハラスメントであるカスハラ対策には、自社専用のマニュアル整備も行いましょう。
カスハラ対策の指針は、2026年2月26日に告示済みです。各社において、就業規則への条項追加、対応フローの整備、管理職研修等を、施行日から逆算して進めていきましょう。
▼弊所のカスハラ対策についてはこちら
・カスハラ対策(スターターキットプラン)
・カスハラ対策(充実顧問プラン)
【参考】
・厚生労働省「職場におけるハラスメントの防止のために」
・厚生労働省リーフレット「令和8年10月1日からハラスメント対策が強化されます!」
8. パート・有期雇用労働者のルール改正(同一労働同一賃金の強化)
同一労働同一賃金の施行から5年が経過したことを踏まえ、パートタイム・有期雇用労働法施行規則と関連告示が2026年4月28日に公布、10月1日から施行されます。
改正は以下の3本柱です。
- 雇入れ時の労働条件明示事項に「待遇の相違等に関する説明を求めることができる旨」を追加(違反は10万円以下の過料)。派遣労働者も同様
- 「同一労働同一賃金ガイドライン」の改正(賞与・退職手当、無事故手当、家族手当、住宅手当、福利厚生施設、病気休職、夏季冬季休暇、褒賞の各項目を追加・充実)
- 雇用管理指針(告示)の内容見直し
たとえば家族手当は、契約更新を繰り返すなど継続的な勤務が見込まれるパート・有期には正社員と同一の支給が求められます。住宅手当も、転居を伴う配置変更の有無に応じて支給するものであれば、同様の配置変更があるパート・有期には同一額の支給が必要です。
なお、実務上は様式の差し替えだけでは足りません。
「なぜこの手当は正社員だけなのか」を説明できる状態を作ることが本丸となります。そのためには、手当ごとに支給目的・対象者・待遇差の理由を棚卸ししましょう。
なお待遇差の解消は、正社員の引下げではなくパート・有期側の改善で図ることが求められることにも留意する必要があります。
【一次情報】
・厚生労働省「同一労働同一賃金特集ページ」
・厚生労働省リーフレット「パートタイム・有期雇用労働者に関するルールが変わります(令和8年10月1日施行)」
9. 社会保険の賃金要件(106万円の壁)が撤廃予定
令和7年年金制度改正法により、短時間労働者の加入要件のうち「所定内賃金が月額8.8万円以上」という賃金要件、いわゆる106万円の壁が2026年10月1日から撤廃されます(予定)。
撤廃後に残る要件は以下のとおりです。
- 週の所定労働時間20時間以上・2か月超の雇用見込み
- 学生でないこと
- 特定適用事業所(被保険者51人以上)であること



つまり社会保険加入の判定基準は、事実上「週20時間」に一本化されるということです。
企業規模要件も、2027年10月に36人以上、2029年10月に21人以上、2032年10月に11人以上と縮小され、2035年10月には撤廃され、ゆくゆくは全企業が対象となります。
このことによる法定福利費の増加インパクトは小さくありません。新たに加入対象となる労働者を洗い出し、年間の事業主負担額を試算しておきましょう。
なお新たに適用拡大の対象となる短時間労働者には、本人負担を軽減する特例(標準報酬月額12.6万円以下の方に3年間)も設けられています。
【参考】
・厚生労働省「社会保険の加入対象の拡大について」
・日本年金機構「短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の適用の拡大」
10. 令和8年度の地域別最低賃金(2026年10月頃発効)
2026年7月28日の第75回中央最低賃金審議会で、令和8年度の目安が答申されました。引上げ額はAランク54円、B・Cランク56円。目安どおりなら全国加重平均は1,121円から1,176円となり、上昇額55円・引上げ率4.9%です。地域間格差の是正を意識し、B・CランクがAランクを上回った点が特徴です。
目安は参考であり、実際の金額は各地方最低賃金審議会の答申を経て都道府県労働局長が決定します。発効日も都道府県ごとに異なるため、複数拠点を持つ企業は所在地ごとの確認が必要です。



最低賃金は月給制の正社員にも適用される点に注意してください。
【参考】
厚生労働省「令和8年度地域別最低賃金額改定の目安について」
2027年以降に控える改正|労働基準法の大改正はどうなった?
約40年ぶりの抜本改正として注目された労働基準法の改正案は、2026年通常国会への提出が見送られました。2025年12月26日の記者会見で厚生労働大臣が「2026年の通常国会での法案提出は現在のところ考えていない」と明言しています。
ただし、中止ではなくあくまでも仕切り直しです。
2025年1月公表の「労働基準関係法制研究会報告書」が示した連続勤務の上限規制、勤務間インターバルの義務化、法定休日の特定義務化、副業・兼業の労働時間通算ルールの簡素化、週44時間特例の廃止といった論点は、労働政策審議会で議論が続いています。
連続勤務日数の把握、法定休日の明確化、副業の申告ルール整備は、法改正の有無にかかわらず取り組む価値のある基礎的な労務管理です。
【参考】
・厚生労働省「労働基準関係法制研究会」報告書
・厚生労働省「労働政策審議会(労働条件分科会)」
また2026年7月17日公布の「労働者災害補償保険法等の一部を改正する法律」により、遺族補償年金等の支給要件の男女差解消や、労災保険給付請求権の消滅時効期間の見直しなどが2027年4月1日から施行されます。
中小企業がいま着手すべき5つのこと
2026年の改正は、「給与計算」「契約書類」「就業規則」「情報公表」の4領域に集中しています。
以下は、いますぐ行うべき内容5選です。
- 給与計算システムの点検:
子ども・子育て支援金(0.23%)の設定、賞与への適用、10月からの適用拡大への対応可否をベンダーに確認する - 労働条件通知書の全面改訂:
扶養判定に耐える記載精度(時給・所定労働時間・所定労働日数・手当額)と、10月からの新明示事項を反映する - 就業規則の改定:
カスハラ対応規定、治療と仕事の両立支援、短時間労働者の社会保険加入基準を整備する - コスト試算:
適用拡大による法定福利費の増加額と、最低賃金引上げによる人件費インパクトを同じ表で試算する - 情報公表の準備:
101人以上の企業は、男女間賃金差異(3区分)と女性管理職比率の算出体制を構築する
まずは様式を整備、そのうえで運用や方向性についても検討しなければなりません。
形式的な準備のみだと、あとで労働者への説明に窮することもあります。
優先順位をつけつつ、確実に進めていきましょう。
まとめ|「気づいたら違反していた」を防ぐために
2026年の法改正は、罰則が前提のものばかりではありません。しかし、労働条件通知書の記載不備が扶養認定を左右し、就業規則の未整備が安全配慮義務違反として損害賠償リスクにつながるなど、実務の細部が企業のリスクに直結します。
とわ社会保険労務士事務所では、就業規則の改定、労働条件通知書の見直し、社会保険適用拡大に伴うコスト試算、カスハラ対応体制の構築まで、2026年改正への対応をワンストップでご支援しています。
何から手をつけるべきか分からない段階でも構いません。まずはお気軽にご相談ください。
一緒に少しずつ着手していきましょう。








